Astro と Next.js 比較:パフォーマンスの違いとそのメカニズム
はじめに
モダンウェブ開発において、パフォーマンスは非常に重要な要素です。特に E コマースサイトでは、わずか 100 ミリ秒の読み込み時間の違いがコンバージョン率に影響するとされています。この記事では、最新のフレームワークである Astro と一般的に使用されている Next.js のパフォーマンスの違いを解説します。
ハイドレーションの仕組みとその影響
Next.js のハイドレーションモデル
Next.js では、サーバーサイドレンダリング(SSR)によって HTML が生成されクライアントに送信されますが、その後クライアント側で「ハイドレーション」と呼ばれるプロセスが発生します。
このハイドレーションプロセスは以下のように機能します:
- サーバーから初期 HTML が送信される
- クライアント側で JavaScript がロードされる
ReactDOM.hydrate()
が実行され、document.getElementById('__next')
などで DOM 要素を特定- React のコンポーネントツリーが再構築され、イベントリスナーが取り付けられる
重要なポイント: Next.js では、ページ全体が一括でハイドレーションされます。つまり、静的なコンテンツ部分も含めて全てのコンポーネントが JavaScript によって管理される状態になります。これが初期表示速度に影響を与える主な原因です。
Astro のアイランドアーキテクチャ
一方、Astro は「アイランドアーキテクチャ」と呼ばれる新しいアプローチを採用しています。これは以下のような特徴を持ちます:
- ページの大部分は純粋な静的 HTML として配信(JavaScript なし)
- インタラクティブな要素(「アイランド」)のみが選択的にハイドレーションされる
client:load
、client:visible
などのディレクティブを使用して、いつ/どのようにコンポーネントをハイドレーションするか細かく制御できる
例えば、以下のようなコードでは:
<header>静的なヘッダー部分</header>
<ProductSlider client:load />
<footer>静的なフッター部分</footer>
ProductSlider
コンポーネントだけが JavaScript によってハイドレーションされ、ヘッダーとフッターは純粋な HTML のままです。
パフォーマンスの違い
JavaScript ペイロードの削減
Astro のアプローチでは、必要最小限の JavaScript だけがクライアントに送信されます。これにより:
- ダウンロードする JavaScript の量が大幅に削減される
- パースと実行にかかる時間が短縮される
- 特にモバイルデバイスでの読み込み時間が改善される
インタラクティブになるまでの時間
Next.js では、ページ全体のハイドレーションが完了するまで完全にインタラクティブにはなりません。一方、Astro では:
- 静的コンテンツはすぐに表示され操作可能
- インタラクティブな要素のみが必要に応じてハイドレーションされる
client:visible
などのディレクティブを使用すれば、画面に表示されたときだけハイドレーションを行うことも可能
実装の違い
Next.js のアプローチ
Next.js では、全てのページコンポーネントは基本的に React コンポーネントとして実装されます。サーバーサイドレンダリングにより初期 HTML が生成されますが、クライアント側での完全なハイドレーションが前提となります。
// Next.jsの例
export default function ProductPage({ product }) {
return (
<div>
<Header />
<ProductDetails product={product} />
<RelatedProducts products={product.related} />
<Footer />
</div>
);
}
この場合、静的な要素(ヘッダーやフッターなど)も含めて全体が JavaScript でハイドレーションされます。
Astro のアプローチ
Astro では、基本的に.astro
ファイルは静的 HTML として出力され、必要な部分のみをインタラクティブにすることができます。
---
// .astroファイルのフロントマター部分
import Header from '../components/Header.astro';
import Footer from '../components/Footer.astro';
import ProductDetails from '../components/ProductDetails.jsx';
import RelatedProducts from '../components/RelatedProducts.jsx';
const { product } = Astro.props;
---
<Header />
<ProductDetails client:load product={product} />
<RelatedProducts client:visible products={product.related} />
<Footer />
この例では:
- ヘッダーとフッターは純粋な静的 HTML として出力される
- 商品詳細はページ読み込み時にハイドレーションされる
- 関連商品は画面に表示されたときにのみハイドレーションされる
まとめ
Astro のアイランドアーキテクチャは、特に初期表示速度が重要な E コマースサイトなどで大きなメリットをもたらす可能性があります。必要な部分だけをインタラクティブにすることで、JavaScript のオーバーヘッドを最小限に抑え、ユーザー体験を向上させることができます。
Next.js は SPA(シングルページアプリケーション)としての柔軟性が高く、全体を JavaScript で制御したい場合に適していますが、そのトレードオフとして初期表示のパフォーマンスが犠牲になる可能性があります。
両者のアプローチを理解し、プロジェクトの要件に合わせて適切な技術を選択することが重要です。特にパフォーマンスが重視されるプロジェクトでは、Astro のアイランドアーキテクチャは検討する価値のある選択肢と言えるでしょう。